営業代行
      横浜プレスWebは、「横浜プレス」(出版/出版社の営業代行)が贈る、ウェッブマガジンです。

2014年 本年もどうぞよろしくお願い致します。

今年の干支は、「午」「馬」

「馬」の年は、潮の変わり目の年と言われます。

今まで不調だった人は、好調に、今まで好調だった人は、それなりに

前回の2002年は、欧州でユーロ導入、アジアで台湾大地震

何かと気を揉む年のようですね。

「コラム」   
紙とインクの手品の世界(1)
江口和浩(横浜プレス)

 私は、出版社の「営業代行業」という素人の方にはちょっと解りづらい仕事を生業(なりわい)としている。
 元は、自然科学系の医学書出版社に勤めていたのだが、社の営業戦略と私の方針が相容れず、結局退社してしまった。その後、数社の出版社を渡り歩いたが、いずこも似たり寄ったりで私の営業方針を理解して全面的に信頼を寄せてくれるところはなかった。
よし、それなら自分で起業して自分の営業方針を理解してくれる出版社だけに絞って「営業代行業」をやろう、と決意したまではよかったが、かみさんと小さな子どもたちを抱えて、サラリーマンなら毎月入ってくる給料も自ら叩き出さないと一円にもならないという現実を前にしていささか躊躇したが、「えいやっ!」とばかりに飛び込んでしまった。
「営業代行業」というのは、本来出版社の営業担当者が、読者にもっとも近い位置にいる書店へ行って新刊書や既刊書を店頭に置いてもらうための営業活動を出版社に成り代わって代行する仕事である。この不景気で不況に強いと言われた出版社も経費削減、人員削減を余儀なくされて、全国を股にかけてまともな営業活動を行っている出版社は、大手はともかく中堅から小・零細にいたるまで殆ど見かけない。こういう状況は、「営業代行業」にとってビジネスチャンスでもあるが、ことはそう簡単ではない。
実用、ビジネス書、児童書などは制作部数が多いから、多少の注文では「営業代行業」のお役目が目立たない。かといって、人文、社会科学系の小さな出版社の本は、制作部数は少ないが中堅規模の書店ではハナから置いてくれない。それを一冊一冊丁寧にジャンルごとに置いてもらうには、三拝九拝しても土下座しても置いてもらうのが営業代行を生業としている私の泣き所だが、そうまでして置いてもらっても宣伝力もない小出版社の本は、本そのものに力がないとそれ以上のことはできないし、それ以上やっても結局返品されてしまう。
あとは長年培ってきた書店の担当者とのコネクションを最大限生かして何とか返品させないで売れるまで置いてもらうしかないのである。
ある日わたしは、K大型書店に営業に行った。そこでとんでもないことを経験した。それは、その大型書店の担当者である松田さん(仮名)と話をしている時、ある大手出版社の営業マンが勝手に割り込んで来た。担当者の松田さんも私がまるでいなかったかのように不埒な営業マンと話し始めた。私は、脇によって少し待ってみたが、この二人から何の挨拶もないまま彼らはとりとめのない話に夢中になってまるで私がはじめからいなかったかのように話は続いた。無礼にも程がある。私は怒り心頭、憮然としてその場を去った。
これは常識のない二人の話というだけではない別の意味がある。書店の担当者というものは、大手出版社の営業を大事に、小出版社をないがしろにしていることの象徴である。大手出版社の本を多く売って報奨金(出版社が書店に売り上げの何%かをよく売ってもらったということで払うシステム、ある大手出版社では年間数千万円払っているようだ)を多くもらいたい書店の利害と新刊点数が日に何点も出る大手出版社の利害がこんなところに現れているのだ。商売だから致し方ない面があるのは十二分に分かっているつもりだが、電気製品の量販店じゃあるまいし、どうでもいい本を量販して報奨金の獲得に精を出すくらいなら「本は文化だ」なんてインチキなことを言わずに「報奨金こそ我が命」ナンテ垂れ幕でも吊していればいいのとちゃいますか。これは大手出版社が仕組んだ報奨金によるお店の独占である。
これをやられると報奨金も払えないような小出版社はお店に本を置いてもらえなくなってしまう。私の知り合いの営業マンからも同じようなことがあったと聞いている。
問題は、それで書店の売上が上がっているのかというとそうではない。出版界は不況のどん底にあり五年前から対前年比マイナス成長が続いており、一九九一年よりほとんど経済成長していない。ある面ではこれはいいことかもしれない。大手出版社の総合雑誌も週刊誌もコミックも売行きダウンで広告料も頭打ち、実売部数も頭打ち、まともな本や専門雑誌が低成長ながら持続してゆければこれから多少は希望がもてるということかもしれない。
読者からは書店に行っても読みたい本がないといった意見が聞こえている。大手出版社の本しか書店にならばないことが、業界の売上減にも繋がっている一つの原因ではないかと思うのである。

出版社もボンクラな編集者によってノルマがあるからただ本を制作しているといったことが行われている。これでは読者はたまったものではない。
新刊委託という制度(委託販売制度によって出版社は新刊本の注文を書店から取らなくても自動的に書店に配本されるシステム)により出版すれば本が自動的配本されるので、委託金額の何十%のお金が入ってくるため、新刊書を刊行し続けてさえいれば制作代金と経費の一部は賄えるというぬるま湯(一点一点の本の損益分岐点を考えて出版してこなかった)が大手・中堅出版社にはびこってしまった。戦後五〇数年、この委託販売制度のお陰で出版界は他の業界と同じように高度経済成長の恩恵にあずかることができたのだが、ここへ来て出版社と書店を結ぶ取次店が業績悪化の一途を辿り、昨年末、人文社会系専門取次店の鈴木書店が自己破産してしまった。この問題については別に稿を改めて論じたい。

しかしいい話もある。電子出版である。これによって出版社が直接読者に本を販売することがシステムとしてできるようになる。今のところ出版社の売上のほとんどは、取次店を通して書店での販売に頼っているが、電子化を行うことにより読者が出版社のホームページから本を直接読むことができるようになって、売上の基盤がもう一つできる可能性が出てくる。そのためにはやらなければならないことがたくさんあるが、中小出版社はこの可能性に賭けてもいいのではないかと思う。
理由は、
1 今後も小出版社の本が書店に並ぶことは可能性としては段々少なくなってくる。
2 インターネットが今以上に人々の生活の中に入っていき、電子化による読書もそれほど抵抗がなくなっていく可能性がある。
3 印刷費より電子化の方が格段に経費としては安くなる。
4 書籍のデータベース化ができるので半永久的に販売が可能であり保存も可能である。
5 出版界だけが紙とインクの経済活動に耐えられるとは思えない。電子化により本をいろんな切り方で表現できる。例えば、データベースをうまく活用してあるキーワードだけで新しい本にすることもできる。
他にもあると思うが今のところそんなところだろう。

本は、人が書いたり描いたりするものだが、その人の外観は解ってもその人の心模様はなかなかわからない。本を読んでいると、著者と編集者との格闘によって著者の心模様が幾層にも見えてくることがある。そのような本をつくることが出版するという意味であると思うのだが……。

2008.5.10更新

       「横浜ぷれす堂」       本の紹介  

1『ヴァリニャーノとキリシタン宗門』 新装版 新版
松田 毅一 著 朝文社 版
5,000円(税込) 2008年04月 発行 ISBN 978-4-88695-209-7
日本近世史
多くのロングセラーを生んだ16世紀末 信長・秀吉・家康三代にわたる日本の歴史上もっとも波乱にとみ、かつロマンのある時代 天正遣欧使節の派遣や、ローマ法王への謁見を企てたヴァリニャーノ。 彼こそが、日本キリシタン史上最も大いなる活動をした人物である。そ...

2『Q&Aでわかるアレルギー疾患』 Vol.3 NO.6  アレルギの医学専門書
丹水社 版
2008年03月 発行 1,800円(1,714円+税)
ISBN 978-4-901827-53-9

3『プライマリ・ケア救急 小児編』
市川 光太郎 編 プリメド社 版
3,570円(税込) 2008年03月 発行 ISBN 978-4-938866-36-5
医学診断学一般
本書は、家庭医やプライマリ・ケア医が小児を診察する際の緊急時の対応と判断についてまとめた本である。 本書の目的は、救急処置とともに患児・親の訴えや種々の所見などの書記情報から、後方病院へ転送すべきか、あるいは、自院で処置が可能であるかの“即座の判断

4『DV JAPAN』 Vol.34
伸樹社 版  映像クリエーターの雑誌
2008年03月 発行 1,200円

5『スペシャリストによる英語教育の理論と応用』
小寺 茂明 編著 吉田 晴世 編著 金谷 憲 (他)著 松柏社 版
2,625円(税込) 2008年05月 発行 ISBN 978-4-7754-0148-4
英語・外国語科教育
英語教育学、国際英語、英語におけるリズム、学校英文法、第二言語習得研究、メタ認知、動機づけ、シャドーイング、コーパス、ICT、テスト、授業実践、小学校英語といった英語教育における最重要課題についての各分野のスペシャリスト13人による最新の研究成果が盛...
6.『D.H.ロレンス書簡集 5 1914』
D.H.ロレンス 著 吉村 宏一 (他)編訳 松柏社 版
3,780円(税込) 2008年05月 発行 ISBN 978-4-7754-0147-7

7『年金の基礎知識Q&A 平成20年度』
安田 まゆみ 著 ビジネス教育出版社 版
1,890円(税込) 2008年05月 発行 ISBN 978-4-8283-0228-7
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  出版の仕事に携わって来た者として、本に関する情報をこれからも発信して行こうと、これを立ち上げました
   2004年3月吉日


発行:横浜プレス

     江口和浩

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